『PERFECT DAYS』役所広司が魅せた、静かすぎる奇跡

何も起こらんようで、すべてが起こってる映画

『PERFECT DAYS』――この映画を一言で言うなら、「心の奥底を静かに揺らす90分」や。
主人公・平山(役所広司)は、東京・渋谷の公衆トイレ清掃員。毎朝、同じ時間に起きて、歯を磨き、植物に水をやり、同じ音楽を聴いて出勤する。働く場所は、東京のど真ん中、けど、彼の時間はものすごくゆっくり流れてるんや。

最初は「これ、ほんまに映画になるん?」って思うくらい、何も起こらん。ただトイレを磨いて、弁当食べて、夕方には銭湯行って、缶ビール飲んで寝る。それだけ。でもな、見てるうちに気づく。「あれ?この人、幸せそうやな…」って。

日常の中の“繰り返し”に、こんなにも温度があって、味わいがあるって教えてくれる。
平山が木漏れ日を見上げて微笑むシーン、フィルムカメラで木を撮る姿、古いカセットテープから流れる音楽――全部がささやかで、でもめっちゃ豊かなんよ。

言葉よりも雄弁な「間」と「まなざし」

この映画での役所広司の演技は、ほんまに圧巻や。
セリフはほとんどない。誰かと喋ることすら少ない。けど、その沈黙の中に、ぎゅーっと感情が詰まってる。表情も大きく動かへん。でも、まなざしだけで「この人、今なんか思ってるな」って伝わってくる。演技やなくて、生きてるって感じ。

たとえば、銭湯の脱衣所でぼーっとしてるだけのシーンでも、そこにちゃんと“人生”が映ってる。
ベンチで缶コーヒー飲むだけで、なんかこっちが泣きそうになる。

言葉がないからこそ、見てる側が想像してまうんよな。「この人、昔どんな人生やったんやろ?」「誰かを失ったんかな?」って。
観客が勝手に“余白”を埋めていく。そこがこの映画の面白さであり、しんどさでもある。


姪との再会で揺れる、閉じ込めたはずの過去

物語の中盤、平山の静かな日々を揺るがす存在が現れる。それが、突然やってきた姪っ子。彼女が放つ“今どきの若さ”と、平山の静けさが真逆でな、観てるこっちも気持ちがざわつくんや。

姪の「なんであんな暮らししてんの?」っていう目線が、ちょっと刺さる。でも、彼女が平山の部屋を見て、撮りためた木々の写真に触れたとき、なんとも言えん空気が流れるねん。
「この人、何もしてへんようで、ちゃんと生きてるやん」って、姪自身も気づいたような空気があった。

そこから、平山がふと見せる表情の“ほつれ”。
封じ込めてきた過去とか、誰かとの別れとか、言葉にはされへんけど、確実に何かがあったんやろな…って、観る側の想像を掻き立てる。これがまた泣けるんよ。

カンヌ最優秀男優賞は、納得しかない

第76回カンヌ国際映画祭で、役所広司が最優秀男優賞を獲った。これはもう、誰も文句言えんくらい当然やと思うわ。あのセリフの少なさ、表情の変化のなさで、なんでこんなにも人を感動させられるんやろな。

演じるというより、「そこにいる」って感じ。演技が透明なんよ。彼の存在が、この映画全体を語ってるっていうか、喋らへんからこそ、すべてが染みてくる。

監督ヴェンダースが描きたかった“静かな生”

ヴィム・ヴェンダース監督は、かつて『パリ、テキサス』でも「沈黙の男」を描いた人やけど、今回の平山はさらに“無音”に近い。
でもその分、音楽・光・空気感――そういう“目に見えんもの”がめっちゃ濃密に詰まってる。

「生きるって、何かを成し遂げることやなくて、ただそこにいることかもしれん」
そう言われてるような気がしたわ。


『PERFECT DAYS』は、「日常が愛おしくなる映画」やなく、「日常の中にこそ、生きる意味があるって気づかせてくれる映画」やった。

ラストの涙のカット――あれはもう、全人類一度観てくれ。静かに、優しく、人生を肯定してくれる奇跡の1作やったで。

誰かの日常の幸せを見ること、それもひとつの非日常やんか

映画って聞いたら、どうしても「爆発して」「泣いて」「愛して」って、派手で壮大で…そんなイメージがつきもんやけど、この『PERFECT DAYS』は、真逆をいっとる。でもそれがつまらんって思う人も、きっとおるやろうな。

けどな、「自分以外の人が、何気ない日常の中で小さな幸せを見つけてる姿」を見つめるって、ある意味いちばん“非日常”ちゃうかって思うねん。
だって普通、そんなの気にも止めへんし、そもそも見ようとせぇへんやん?

オレらの日常の変化くらいで、世界はビクともせぇへん。でもやで、オレの見てる世界が、少しでも優しく、温かく見えるようになるなら――
それって、めちゃくちゃええことちゃうか?

『PERFECT DAYS』は、そんな“ささやかな幸福”をちゃんと見せてくれる映画やった。
それは派手さこそないけど、ちゃんと心の奥に残る。静かで、やさしくて、あたたかい奇跡の映画やったわ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました